カフェでオバサンが「テイクオフで」と言うもんだから

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世はクリスマスイブの日曜日

特にやることのない僕は自宅でダラダラと時間を消費し、非生産的な生活を送っていました。

やらなければいけない事は沢山あるけど、全くモチベーションが湧きません。

「とりあえずコーヒーでも飲みに行こう」

そう思った僕は暗くなりきれない街を歩き、駅前のカフェへと向かいます。

 

店外まで延びている注文待ちの列へ並ぶと、すぐに僕の後ろにも一人のオバサンが並び始めました。

1分後、いつもより心なしか赤と緑の装飾が多い店内に入ると、いつものスタッフが出迎えてくれました。

「このパンとドリップコーヒーをお願いします」

そう伝えると、僕が雰囲気から勝手に店長と呼んでいる男性スタッフが笑顔で対応してくれました。

後ろのオバサンの邪魔にならないように奥へ移動し、バイトの女の子がパンの用意をしてくれるのを待ちます。

 

「コーヒーを1つ」

オバサンが店長へ注文をします。

「テイクオフで」

 

 

え?

今この人テイクオフって言った?

m9(  ゚,_ゝ゚) ブブブ–

テイクオフってなんだよw

飛び出すんですか〜?

何処かに飛び出しちゃうんですか〜?

 

とか思いながらバイトの子がパンを作るのを待っていたら突然隣からガコッという音が聞こえてきて僕は

あれれ〜、恥ずかしさのあまり倒れちゃったのかな〜

なんて思いながら音のした方を振り向いた瞬間、

 

眩い光を発しながらオバサンが離陸を始めた

ゴゴゴゴゴゴゴ…

テン

ナイン

エイッ

店長の無駄に発音の良いカウントダウンと共に地響きが大きくなり、店内のコーヒーカップがガタガタと揺れ出す

 

「もう! ちゃんとシーケンスチェックをしてから発射態勢に入ってっていつも言ってるでしょ」

少々悪態をつきながらパン子が慣れた手つきでサササっと僕がレジだと思っていた機械を操作しながらヘッドセットを装着し、通信を始める

「ハァイ、ディスイズスタァーバ。フライングインスリィーセカンドゥ。センキューヒップホップイェア」

店内の照明が緑色に変わり、スタッフが配置に着いた。

「発射シーケンスオールグリーン、いつでも行けます!」

パン子がそう言うと同時に、ニヤリと笑いながら店長がカウントダウン『ゼロ』を唱えた

 

シュゴォオオオオ!

 

コーヒーを片手に離陸するオバサンは、勝ち誇ったように笑っていた。

 

 

クソッ! やられたっ…!

敗北感と焦り、そして少しの動揺をブレンドした心情の僕はどうすれば良いのか分からなかった。

 

「素直になりなよ」

「え?」

突然、パン子が口を開いた。

「本当はあなたも行きたいんでしょう?あの空の向こう側まで」

「パン子…」

「今行けばまだ間に合うわよ」

「パン子…」

「ほら、パンも出来上がったわ」

「パン子!」

「バタバタしてたから、ちょっと散らかっちゃったけどね」

「パン粉…」

コーヒーとパンを受け取ると同時に、心を決めた

 

「やっぱり、僕もテイクオフで」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

再び店内が騒がしくなる中、パン子がマフラーを渡してきた。

「上空は寒いからこれを付けてね。プレゼントよ」

「ありがとう」

少し顔を赤らめたパン子からマフラーを受け取る

 

「私、あなたのことがー

 

シュゴォオオオオ

 

上空へ到達し辺りを見回すと、サンタクロースとコーヒーを飲むオバサンの姿を見つけた。

「来ると思っていたわ」

「あなたが誘ったのでしょう」

「普通は誘われても来ないわ。あなた、慣れてるのね」

「えぇ、まあ。家庭の事情でね…」

サンタのソリに乗り込み、空を回遊する。

「今日はあまり星が見えませんね」

「地表が明るいからじゃろう。人は気分が落ち込んでいると届くはずのない星を崇めだす。じゃが今日はみんなの笑顔の方が輝いておる。星なんて見る必要がないほどにな」

そう言いながらサンタは私服から仕事着へと着替える

「よし、日が変わった。そろそろ行こうかの」

 

サンタがソリの操縦、オバサンがプレゼントの配布、そして僕がシャンシャンと言う役を担った。

 

世はクリスマスの月曜日

「シャンシャンシャンシャン」

子供達へプレゼントを届けながら、僕は他の事を考えていた。

集中しようとしても、首元でチクチクするパン粉がどうしても気になるのだ。

着陸したら、とりあえずまたコーヒーでも飲みに行こう。

– fin –

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